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石山寺から瀬田川の上流へ向かい、「瀬田の唐橋」を渡ります。
瀬田の唐橋は日本三古橋の一つで、「勢多次郎」と称され、瀬田川の
下流の宇治川に架かる宇治橋は「宇治三郎」、更にその下流の淀川に
架かる山崎橋は「山崎太郎」と称されていました。
日本三古橋の筆頭とされる山崎橋は、神亀2年(725)に行基によって
架けられたと伝わりますが、その後度々の洪水で流され、
豊臣政権下で一時復活されたもの、その後失われてからは
昭和37年(1962)まで渡船が運行されていました。

瀬田川に本格的な橋が架けられたのは天智天皇が天智天皇6年3月19日
(667年4月17日)に都が近江大津宮へ遷された時代と推察されています。
昭和63年(1988)に瀬田川で浚渫工事が行われた際に、
現在の唐橋より約80mの下流で橋脚の基礎が発見されました。
近江朝廷によって築かれたものと推定され、橋の幅は7~9m、
長さ250mと考えられています。
天武天皇元年(672)に天智天皇が崩御され、天皇の皇子である大友皇子が
後を継ぎますが、吉野に下っていた天皇の弟の大海人皇子が挙兵しました。
大海人皇子は伊勢国から美濃に入り、東国からの兵力を集め、
軍勢を大和と近江の二手に分けて進撃しました。
大友皇子方は、瀬田橋の橋板を外して防御に備えたのですが、
大海人皇子の軍に突破され、大友皇子は自決しました。(壬申の乱
これが文献での初見とされ、その後度々戦の舞台となり、
「瀬田川を制する者は、天下を制する」とまで言われるようになりました。
現在の地に橋が架けられたのは、天正7年(1579)に織田信長によるもので、
長さ約330m、幅約7.2mの橋を90日間で完成させたと伝わります。
しかし、本能寺の変で信長を倒した明智光秀が安土城への進軍を
阻止するために、瀬田城主の山岡景隆により瀬田橋は焼き払われました。
その後、豊臣秀吉により橋が再建され、現在のように中島をはさんだ
大橋と小橋の形となったと考えられています。
江戸幕府は、瀬田川に唐橋以外の他の橋を架けることを禁じ、
膳所城主に保護監理の任務を課しました。

江戸時代初期の安楽庵策伝(あんらくあん さくでん)上人の
醒睡笑(せいすいしょう)』巻2では、連歌師・宗長の歌を引用し、
「急がば回れ」のことわざの発祥であると紹介しています。
「武士(もののふ)の やばせのわたり ちかくとも いそかはまはれ
 瀬田の長はし」
東から京都へ上るには草津にある矢橋(やばせ)の港から
大津への航路が最も早いとされていました。
しかし、比叡おろしの強風で船出・船着きが遅れることが多々あり、
瀬田まで南下して唐橋を渡れば、日程の乱れ無く進めることが詠まれました。
江戸時代の橋の情景は歌川広重の
浮世絵「近江八景・瀬田の夕照」に残されています。
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松尾芭蕉は「五月雨に 隠れぬものや 瀬田の橋」や
「橋桁の 忍は月の 名残り哉」などの句を残し、橋の東詰には山崎茶酔の
「松風の 帆にはとどかず 夕霞」の句碑が建っています。

大正11年(1922)の橋の架け替えで、それまで木造だったのが
初めて鉄筋コンクリート製になりました。
昭和8年(1933)に国道に指定されましたが、その後北側に
瀬田川大橋が架橋され、国道から外されました。
現在の橋が架橋されたのは昭和54年(1979)で、
「文政」「明治」などの銘が入った擬宝珠が受け継がれています。
平成24年(2012)には、唐茶色に塗り替えられ、現在に至っています。
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橋の東詰には俵藤太(藤原秀郷)の大ムカデ退治の図が描かれています。
橋には以下のような伝承が残されています。
『あるとき勢多(瀬田)の橋に大蛇が出て往来をさまたげた。
狩りの途中、橋を通った秀郷はこれをものともせずにその背中を渡って行く。
すると突然、翁が秀郷の前に現れ、「私は橋の下にすむ龍神です。
三上山を七巻半もする大むかでが出て、苦しめられています。
ぜひ退治していただきたい」と言った。
さて、秀郷は三本の矢を用意し、むかで退治に出た。
二本の矢は次々に跳ね返された。
そこで三本目には自分の唾をつけ、キリリと射ると、
矢はついに眉間に突き刺さり、むかでは退治された。』
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画像はありませんが現在の瀬田の唐橋下流の雲住寺には、
「百足(むかで)供養堂」があります。
雲住寺は応永15年(1408)に秀郷の追善供養のために、15代目の子孫に
当たる蒲生高秀により創建され、瀬田の唐橋の守り寺にもなっています。
すぐ隣の龍王宮秀郷社では俵藤太と乙姫を祭神としていますが、
永享12年(1440)頃の創建時には、瀬田の唐橋の下には龍神が住むという
伝説から龍神が祀られていました。
また、近江朝廷が架けた橋は雲住寺の前辺りとされています。

神仏霊場・第145番札所の建部大社へ向かいます。
続く